筋力トレーニングは、スポーツ医科学の歩みとともに進化してきたトレーニング法の代表格です。
スポーツのような高度な身体運動は、筋肉をどう使うかによって、そのパフォーマンスの成否が懸かっています。ですから、筋肉の鍛え方が最も注目されてきたのは当然です。
筋力という言葉からは、力という言葉が頭に浮かんできます。何しろ筋の力ですから、筋力トレーニングで力を付けよう、と思ったところで間違っているとは言い切れません。
ところがです。スポーツにおいての次の場面を想定してみましょう。ゴルフの藍ちゃんがクラブのグリップを握っている—。室伏広治がハンマーを投げきる—。末續慎吾が200m走の後半に頑張る—。これらの場面で発揮する力は、みな同じでしょうか。違いますね。
ゴルフのクラブを握っている力は、一動作で発揮される力です。これが厳密に言えば「筋力」です。
最大、あるいはそれに近い力を発揮することを「筋のパワー」といいます。ハンマー投げや走り幅跳びの踏み切りなどで使われるエネルギーです。
スポーツでの作業能力は、筋力・持久力・柔軟性が柱で、これをスポーツでの“三種の神器”と言います。持久力といっても、短距離走者である末續慎吾の後半の粘りと、長距離走者である高橋尚子の頑張りとでは、性質が全く異なります。末續慎吾のような粘りを、「筋の持久力」といって、力の発揮の仕方の一つに数えます。
筋力トレーニングを行うときには、筋力を付けるのか、筋のパワーを向上させるのか、筋の持久力を鍛えるのかを考えながら行う必要があります。
高校生スポーツマンのトレーニングで一番大切なのは、立派な体づくりです。立派な体づくりと言われても、よく分からないかもしれませんが、筋肉と骨を丈夫にすることだと思います。高校時代は、発育・発達の過程からみても、それに適した時代なのです。
筋肉を丈夫にすることに関しては、抗重力筋を鍛えることが大切です。読んで字のごとし、で地球の重力に対抗して地上に立つために頑張る筋肉です。この筋肉が弱いと、大抵のスポーツの「構え」が、いいかげんになってしまいます。また、長時間の試合やトレーニングに耐えることができないでしょう。ですから抗重力筋を鍛えることは、スポーツトレーニングの入り口になります。
抗重力筋とは、ふくらはぎ、太ももの表側、尻、腹、脊柱(脊柱)起立筋です。抗重力筋を鍛えるという目的だけであれば、他の筋力トレーニングとは異なり、やや強い負荷で多数回繰り返すような方法で行っても有効です。なぜならば、これらの筋群は、赤筋線維という持久性のある筋線維の占める割合が多いためです。これを鍛えれば長い時間、しゃんとした姿勢を保つことが可能になります。また、駅伝競走のような比較的長い時間の走りのフォームも崩さなくて済むようになります。
(田中誠一=浜松大教授・東海大名誉教授)