体づくりというと筋力トレーニングをイメージするアスリートが少なくないように思えます。確かに筋力は、すべてのスポーツの基礎となるものですから、これを考えずにトレーニングは成り立たないのも事実です。
しかし、ここで考えなくてはならないのは、スポーツ種目の選択と筋力トレーニングの関係です。今、A君とB君が砲丸投げの基礎トレーニングとして、筋力トレーニングに励んでいたとしましょう。専門的な指導者の計画の下に数週間トレーニングを続けた結果、A君は一向にその効果が上がらないのに対して、B君の方は目に見えて効果が上がり、砲丸投げの成績にも反映されだしました。
筋力トレーニングのトレーナビリティ(訓練によって能力が向上する可能性)には、様々な要因、例えば休養と栄養などが考えられます。しかし、A君もB君も高校生アスリートだと仮定しますと年齢も食べ物も、そんなに違いはないでしょうから、この両者のトレーニング効果の違いは、スポーツ種目選択が間違っていたのではないかと考えるべきです。
筋力トレーニングの目的は、言うまでもなく筋肉(骨格筋)を鍛えることです。この筋肉は、速筋繊維という太くなりやすい筋繊維と、遅筋繊維といって太くなりにくいが長時間の運動が得意な筋繊維から成り立っています。この性質の異なる筋繊維は、個人個人によって筋肉中に占める割合が違います。これを占有率といいますが、これは生まれもってのもので、栄養・運動によって変わるものではないとされています。
A君とB君の年齢や食べ物、トレーニング内容などの条件がほぼ同じだとしたら、B君は速筋繊維の占有率が高く、A君は、それに比べて低いことが考えられます。砲丸投げは速筋繊維の占める割合が多いことが有利で、速筋繊維に対する筋力トレーニングの効果が高い人ほど、記録が伸びる可能性があります。A君は種目の選択を誤った可能性が高いとみるのが普通の見方といえましょう。
A君もB君も投てきのアスリートですが、健康のために長距離をジョギングすることがたまにはあるでしょう。このとき、A君が生き生きとして走っているとしたら、A君は遅筋繊維優勢型のタイプかもしれません。全身持久力がものをいうような、例えば1500m走などに種目をシフトしてみたら面白いのではないのでしょうか。
一言で筋力トレーニングといっても、すべては生物学的素質によってその効果が左右されるものです。そこには、年齢、性別、生活環境など個人によって、すべてのトレーニング効果には差があるという個別性の原則を念頭に置いて事に当たるべきです。特に筋力トレーニングでは、人によって発現(筋の肥大)の程度と進化の速度が違うことがあって当然、と考えるトレーニング環境が必要でしょう。
(田中誠一=浜松大教授・東海大名誉教授)