トレーニング論

第 7回 ウォームアップ(07年2月号掲載)

スポーツ活動に付きものの準備運動は、以前は準備体操といわれることが多かった。それは体操によって柔軟性を高めておくことが運動を安全に、かつ円滑に行うのに役立つと考えられていたからです。

クイーンズイングリッシュ(イギリスの標準英語)では、今でもリンバーアップ、すなわち、しなやかにする(なる)と言うことが多いのです。しかし、一般的には、ウォームアップ、温めるという言葉の方がよく使われているようです。どちらかというとウォームアップの方が運動生理学的な実態を表しているからです。

ウォームアップは、ジョギングやスロースイミングのような有酸素的な運動から入ります。このことで体温(筋温)が上昇し、筋グリコーゲンや中性脂肪などのエネルギー源を運動エネルギーに変えやすくなります。また筋肉も伸びやすく、神経の伝達もスムーズになると考えられています。

よくトレーニングのマニュアル本には、「1000mぐらいの距離を、ゆっくりとしたスピードでジョギングする」とありますが、これは気温20度ぐらいの室内(無風)のランニングマシーンで、1000mを6分でジョギングすることを想定したものです。

初めて試みるのには、これを目安にすることもあるでしょうが、屋外では風の有無、気温や湿度のことも配慮しなければいけません。一応の目安を基に試行錯誤し自分に合ったウォームアップを身に付けることが大切です。自分に合ったというのは、先の条件に個人個人の競技力や健康度などの違いによって、例えばジョギングでも、速さや時間が違ってくるからです。

スポーツ活動では、スポーツ外傷・障害を避けて通ることが、健康度を維持するうえからも、競技力を向上するという目的からも大切です。そのためには、柔軟性、関節の可動域を高めておくことが大切です。これには、ストレッチングで対応するのですが、ストレッチングには、静的ストレッチングと動的ストレッチングがあります。一般に言われているストレッチングとは、静的ストレッチングのことです。

メジャーリーグのイチローを思い浮かべてみますと、バッターボックスに入る前にバットを持って体をぐるぐると回し、二度三度とバットの素振りをやっています。これが動的ストレッチングです。

確かに関節の可動域だけだったら、静的ストレッチングで十分な条件が整うかもしれませんが、あるスポーツ独特の動き(フォーム)は、軽くその動きそのものを行う必要があります。これが動的ストレッチングです。

このようにしてウォームアップが行われるのですが、忘れてはならないのが過渡的ウォームアップです。野球のトレーニングでいえば、キャッチボールやトスバッティングが、それに当たります。もちろん、これらは基礎動作の確認という意味もありますが、ウォームアップとしても欠かすことのできないものなのです。

(田中誠一=浜松大教授・東海大名誉教授)