ヒトの体組織は、脂肪・筋肉(骨格筋)・骨の三大要素から成り立っています。いずれも、運動のパフォーマンスを左右するほどの大きなかかわり合いを持つ組織で、スポーツの種目によって、これらをどういうコンディションにするかがトレーニングのテーマになります。
一般論では、運動量が減れば脂肪の量が増え、筋肉と骨量が減ることになります。スポーツ界では、減量という言葉を使うことが多いように思います。減量には、体重別の柔道・レスリングのようにある範囲で体重減を強いられるもの、動きを円滑かつ俊敏にするためのもの、マラソンのように走りの消費エネルギー量を考えて行うものがあります。
スポーツトレーニングにおいて間違いが生じやすい言葉に「体を絞る」とか「ベスト体重」というものがあります。筆者は1994年、千葉ロッテマリーンズのキャンプでの指導中、ある投手が毎日サウナに長時間入っているのに気が付き「何のために……」と問いかけたところ、「体を絞っています。あと2㌔ですから……」と、答えが返ってきたのをいまだに思い出します。この投手には、体重何㌔がベストコンディションという考えがあったに違いありません。果たして、体重何㌔がベストコンディションという論理があるのでしょうか。
体重は、脂肪・筋肉・骨の総和と、水分プラスその他の重さです。投手にとっての良いコンディションは、適正な脂肪と充実した筋肉、その中の十分な筋グリコーゲン、そして丈夫な骨、これらを神経系が満足の行く支配をしていることが背景になります。サウナで水分を失い体重計に乗って一喜一憂している場合ではないのです。
投手のトレーニングは筋肉・靭帯(じんたい)・腱(けん)・骨・関節をターゲットにしているので、体脂肪を減らすには不向きな運動が主体になっています。このことを十分に注意して体調を整えていくことが大切なのです。
スポーツトレーニングは、運動によって、また運動の頻度や量によって、体のどの組織をどのような機能にするのかを考えて行うものです。
相撲とりを例にすれば、彼らの激しい稽古(けいこ)は無酸素系の運動で、筋の肥大や関節の可動域(柔軟性)を高めるのに有効なものです。また、1日2食のちゃんこ鍋は体脂肪を増やすことにも貢献します。巨大な体は厚く太い筋と体脂肪によるものです。このことが勝負に勝つことに有利となります。
反対に高橋尚子のランニングは軽負荷の運動です。したがって、筋肉の白筋繊維の肥大は起こりにくく太い足腰にはなりません。ランニングは有酸素系の運動ですから脂肪の燃焼率が高く、体脂肪が低くなり記録の出やすい体になります。
以上のことから学ぶべきことは、自分のやっているスポーツにふさわしいコンディショニングを選択することです。
(田中誠一=浜松大教授・東海大名誉教授)