スポーツトレーニングは、器官の構造を改善して機能を高めようとするものです。対象となる器官は、直接、運動に動員される筋肉(骨格筋)などの運動器と、それに酸素やエネルギー源などを供給する心肺や血液とに分けることができます。それぞれの器官について基礎的なことを知っておくことが大切です。
骨格筋ですが、よく見掛けるトレーニングのマニュアルでは、筋力は筋の横断面積に比例すると書かれているようです。果たしてそうでしょうか。これが本当だとしたら、優れたボディビルダーよりハンマー投げの室伏広治の方が、ひょっとしたら力が弱いと考えてしまうかもしれません。
骨格筋の横断面積が広い、すなわち筋が太ければ、細い筋より強いということは間違いではありません。一方、筋力トレーニングを始めても、すぐには筋の肥大は見られません。しかし、日を追うごとに筋力は向上します。どうして筋力が高まるのでしょうか。
鍛えていない骨格筋は、その筋を伸び縮みさせる神経の束が十分に使われていないことが多いのです。このような状態で筋力トレーニングを始めると、まずは使われていなかった神経の束が機能していきます。機能するようになった神経の束が増えた分だけ、筋力が高まって行くのです。そして、次の段階で筋は太く(肥大)なっていきます。
以上から言えることは、力強い骨格筋を作るということは、骨格筋を太くすることと、これを伸び縮みさせる指示を出す神経の束の動員数を増やすことです。そのためにはターゲットにしている筋群を5~12回ぐらい繰り返せる負荷で運動させる一方、1~4回ぐらいまでしか繰り返せない強い負荷での運動も行う必要があります。
次に、筋力トレーニングによる筋の肥大について解剖学的な説明を加えておきましょう。骨格筋は、赤黒く見える赤筋線維(遅筋線維)と、白っぽく見える白筋線維(速筋線維)から成り立っています。筋力トレーニングで肥大した筋をよく見てみると、持続的な筋力を発揮する赤筋線維に顕著な変化は見られず、瞬発的な筋力を発揮する白筋線維が肥大していることが分ります。
赤筋線維と白筋線維の占める割合は個人によって違うわけですから、遺伝学的に白筋線維優勢の競技者の方が筋力トレーニングのトレーナビリティ(訓練によって能力が向上する可能性)が高いということができます。
さらに性差について考えてみますと、男性・女性ともに筋線維の単位体積当りの筋力に差がほとんど見られません。若い男性・女性の間に筋力の差があるとしたら、それは筋の絶対量の差とみるべきです。従って、女性の筋力トレーニングは無駄であるといった考えは正しくないのです。ただし、性周期の背景となるホルモンの影響でトレーナビリティの低い期間があることは、考慮しなくてはいけないでしょう。
(田中誠一=浜松大教授・東海大名誉教授)