トレーニング論

第11回 競技力向上のために足腰を鍛える(07年6月号掲載)

「足腰を鍛える」ことは、野球・サッカー・ラグビーなど多くの球技において競技力を高めるための命題といえるでしょう。

この命題に取り組む簡単で一般的な方法として、走ることが奨励されています。大抵の球技では「何をおいても走らせること」と考えている指導者、「走らなければ強くなれない」と思っている競技者がいます。

中身はどうであろうと、基礎トレーニングに疑問をもったり嫌ったりすることの多い高校生に「走ることだけはやらなければ」と思わせているのですから驚きです。しかし「走らないで済ませたい」と思っている人も少なくないはずです。なぜかと言えば、走ることで苦しくなったり、足腰が立たなくなるほど疲れたりするだろうし、走ることが競技場面そのものでないことすらあるからです。

先日、久しぶりに東京ドームで巨人軍の試合前コンディショニングを見ていると、高橋由がただ一人、短い距離の走りを何回か繰り返していました。原監督に、いつもあんな風なのかと聞いたところ、「バッティングの調整でやっているのですよ」という答えが返ってきました。これは、競技場面そのものではない基礎トレーニングとしての走りです。

走りという運動は足腰の大きな骨格筋を使って行われるものです。よく「オフシーズンにはしっかり走っておかなければ」と数キロ、数十分間を走る光景が見られます。この走りでは、骨格筋の赤(遅)筋線維が主役になっていますので足腰はさほど太くなりませんし、野球のベース間の走力の向上には結びつきません。

高橋由の場合、バッティングの際の足腰の安定した強さを作るための走りで、白(速)筋線維が主役です。ですから、短い距離を速く走らなければいけないのです。バスケットボールの攻守の切り替えの速い走りや、ジャンプ競技の足腰を鍛えるための走りも同じように、白筋線維の役割で足腰は太くなります。

これもオフシーズンによく見るのですが、急な坂道やお寺の石段などを走る場面があります。この走りによって身につくトレーニング効果と、それを競技のどの場面で使うのかを分かってやっているのでしょうか。もしかしたら体を痛めつける、やればやっただけのことがある式の発想だとしたら困りものです。

登り坂走や階段上りは、長い距離ですることは、まずありません。途中で立ち止まる、あるいはゴールでへたりこむことになると思います。この走りで獲得されるトレーニング効果は脚の持久力です。長い距離の持久力とは違って、これは白筋線維の持久力です。従って足腰は太くなります。

どんな場面で使われるのかといえば陸上競技の400メートル走が代表格です。野球ベース間の走りで、走者が本塁ベース近くで急に遅くなるのはこの能力が低いからで、それこそ裏山の坂上りをする必要があります。

「足腰を鍛える」ための普遍的ともいえる走りについて運動生理学の知見を基に述べました。長い距離を走る練習は全身持久力の向上にはなるが、「足腰を鍛える」という意味からは、ひと工夫なくてはいけないのでしょう。

ひと工夫とは、運動時の足腰の安定につながることや、10秒以内の動きに対応するものなら10秒前後のダッシュ(無酸素系の走り)、90%以上の努力水準を長く保ちたいなら、へたり込むような走りを選択することです。これらを繰り返すプログラムでは、ダッシュなら120~160秒、へたり込むような走りなら6分間ぐらいのジョギングなどの動的な休息を挟んでの繰り返しが効果的です。

(田中誠一=浜松大教授・東海大名誉教授)