「走る」という運動動作は、ほとんどすべてのスポーツのトレーニングとして採用されています。
末続慎吾が緩やかな上り坂を全力で走っている姿を見たことがあります。これによって得られるトレーニング効果は、白筋(速筋)の持久力でしょう。200㍍の後半での粘りを意識してのことです。
高橋尚子は、今でもコロラドの高地で走っています。普通の人ならバス停まで走れば、息遣いが荒くなるほど酸素の希薄な所でのトレーニングですから赤筋(遅筋)と呼吸循環器系の強化を狙ったものです。
時々、次のような光景に出くわすことがあります。トレーニングや激しい試合後に黙々と走っている姿です。これも先述したような特異性のあるトレーニングなのでしょうか。それは違います。トレーニングとは、生体にある水準のダメージを与え、疲労が回復する過程で体の構造や機能を改善するものです。
この場合の走りは、生体にダメージを与えるものではありません。疲労の回復を円滑に早めようとする運動であるといえます。また、試合に疲労はつき物ですし、大抵の場合、体にゆがみも生じています。これを除去・改善するための走りでもあります。
こうした走りは、ごくゆっくりとしたもので、何の苦痛も伴わずに数分から数十分間走れるものです。なぜ、このような走りが必要なのかを考える前に、トレーニングや試合において体がどのようなダメージを受けるのかを考えてみたいと思います。
トレーニングや試合の形態によって違いはありますが、共通していることは、水分・エネルギー源となる物質である糖質や脂質、ミネラル、ビタミンの消耗です。疲労物質といわれる乳酸も蓄積しているでしょう。走り幅跳びや重量挙げなどの無酸素系の激しい運動では、骨格筋に微細な損傷が見られることがあります。エネルギー源となる物質を補給し、組織を修復するためには、まず水分と酸素を血液によって運ばなければいけません。先ほどの走りはそのためなのです。
疲労を取り除くことが目的ですから、ごくゆっくりとしたスロージョギングといわれる走りであることが大切です。言うまでもなく、トレーニングや試合が終わってから間もなく行うことが必要です。前述しましたように、まずはトレーニング後に水分を取ってから始めることです。決して頑張って走ってはいけません。
プロ野球選手を指導した経験から申しますと、プロ野球では大抵、前日に長いイニングを投げた投手が翌日、グラウンドに現れてスロージョギングをしていました。決して無駄とは言いませんが、登板後に走っていたらより良い効果が得られるのになあ、という思いがありました。
(田中誠一=浜松大教授・東海大名誉教授)