オフシーズンでは、次のシーズンでどのようなパフォーマンス(運動遂行)を目指すのかをきちんと見定めて、それを実現するための身体構造をつくっていくことがトレーニングの柱になります。
例えば、砲丸投げの成績を上げるためには、筋のハイパワーを高める必要がありますので、骨格筋の肥大を意識したトレーニングを組み立てるでしょう。もし、長距離種目の記録を短縮しようとするならば、心肺機能を高め、酸素の運搬役であるヘモグロビンの濃度を高めたり、酸素の受け手であるミオグロビンの機能を考えたりしたトレーニングを計画するでしょう。
同じ筋力でも競技力に差
ところで、同じ水準の筋パワーを持つ砲丸投げ選手が2人いたとしても、同じ記録になるとは限りません。また、血液の赤血球やヘモグロビン濃度に差がなくても、競技力が大きく違うことがよくあります。
フォームが違うと言ってしまえばそれまでですが、百歩譲ってフォームが違うと、どうして競技力に差がつくのかを考える必要があると思います。そのためには、柔軟性について考えてみなくてはいけません。
柔軟性の高さに秘密
柔軟性とは、関節の可動域のことです。昔から柔軟体操という言葉は、スポーツ界で頻繁に使われてきました。「ストレッチング」を、新しく特別な用語と思うかもしれませんが、これも柔軟体操なのです。なぜ柔軟性がいつの時代でもスポーツトレーニングで不動の存在であったのかという点を理解することが、パフォーマンスの差を理解するポイントになるのです。
関節の可動域が広いということは、スピーディーに身体を動かす大きな背景になります。分かりやすく言えば、同じ筋力の持ち主同士でも柔軟性の高い人ほど大きなパワーを発揮できるのです。砲丸投げのパフォーマンスは代表的です。
長距離走では、柔軟性が高いと大きなストライド(歩幅)で走れたり、地面からの衝撃を和らげたりできます。また、柔軟性の低い人に比べて消費エネルギーが少なく済むので、レースを有利に運ぶことができます。
柔軟体操で競技力向上
かつて柔軟体操は、運動中の安全性に重点が置かれていました。そのことも大事なのですが、運動の効率性を高める、すなわち競技力向上の一大背景になるということを念頭に置かなければいけないのです。
柔軟体操は、関節の可動域を広げ、消費エネルギーの効率を高めるため、疲れにくい身体をつくります。さらに、神経系の情報伝達がスムーズになりますから、正確で素早い動きが可能になり、筋温の上昇も見られるのでダイナミックに動けるようになるのです。
(田中誠一=浜松大教授・東海大名誉教授)