トレーニング論

第17回 競技力向上だけを目指さない(08年1月号掲載)

けが・病気を防ぐ視点も大切

Wellness(健康であること)を目指すため、スポーツに励む人が大勢います。その理由を聞くと「スポーツをやっている人は丈夫で元気だから」という声がよく返ってきます。果たして、スポーツマンは丈夫で元気な人ばかりなのでしょうか?

そうではありません。特に、一流といわれるスポーツマンの中には、けが・病気だったりする人が少なくありません。例えば大相撲では、横綱朝青龍の「騒動」の発端はけがでしたし、大関魁皇の勝ち越しもけがを押して出場したことが評価されました。女性長距離走者に多く見られる運動性貧血など、例を挙げたらきりがないくらいです。

足腰だけを鍛えてもダメ

スポーツトレーニングには、Wellnessを維持するものと、競技力向上だけに目的を絞ったものがあります。競技力向上に直接つながるトレーニングだけに関心を持っていると、けがや病気によって、高めようとした競技力が向上しなかったり、かえって低下してしまったりすることがあります。

例えば、野球で足腰を鍛えるために短距離のダッシュばかり繰り返していれば、確かに短距離走が速くなったり、プレー中の構え(土台)がしっかりしたりするでしょう。しかし、有酸素系運動をせずに体脂肪率が上がってしまえば、腰やひざ関節を痛めることが少なくありません。

スポーツマンは、どうしても直接競技力が向上するトレーニングに目が向いてしまいます。しかし、Wellnessが保てなくなると競技力が低くなってしまいます。さらに、けが・病気といわれるところまでいってしまうと、トレーニングの質・量ともに適正な水準が保てなくなり、場合によってはトレーニングそのものが行えなくなります。

競技別の鍛え方に理解を

こうしたことを理解した上で、次の例を考えてみましょう。

野球のプレーヤーが数十分間の長距離走を行うことは、今の時期よくあることです。「なぜ長く走るのか」と聞くと、たいてい「オフシーズンのうちにしっかりとスタミナを付けておきたいから」という答えが返ってきます。

野球という競技に必要な持久力は、陸上競技でいえば200メートルや400メートルを速く走りきるような筋持久力です。長距離を走る主な目的は、違うところにあるのです。

長時間にわたるトレーニング(練習)や試合を何とかやっている状態では、身体のコントロールを失い、けがをしたり過労によって病気にかかったりすることが多くなります。長距離走は、こうしたことを防ぐためにするものです。また、トレーニングや試合による疲労を早く回復するためでもあります。

以上のことをよく理解して身体をつくらないと、落とし穴(けが・病気)にはまることになりかねません。

(田中誠一=浜松大教授・東海大名誉教授)