トレーニング論

第25回 けがから復帰「急がば回れ」(09年6月号掲載)

シーズン中のアスリートにとって、けがや過労などによるフィジカルトレーニングの中止は深刻な問題です。こうした状況に置かれたアスリートは「試合に出ることができない」「ほかのアスリートと技能の差が開いてしまう」と、焦りや不安に駆られるでしょう。

まず休養・リハビリに専念

ここで大切なのは、積極的な休養なりリハビリテーションに専念することです。そして、戦列に復帰するためには、冷静沈着なトレーニングの実践が求められます。

復帰に向けたトレーニングを成功させるためには、さまざまな身体の構造について考えなければいけないのですが、運動器の代表的な構造として知られている「筋肉」について考えるのが第一かと思います。

フィジカルトレーニングを中止すると短期間のうちに筋肉量と筋力が低下し、スポーツのパフォーマンスも衰えます。治療・リハビリテーションの後は、まず筋肉量と筋力を高めるための筋トレをゆっくりと慎重に実施することが大切です。

筋力を戻してから技能トレ

大ざっぱな目安として、筋肉量と筋力を元に戻すには、不活動期の半分から不活動期と同じくらいの時間が必要となります。この後に、技能向上のトレーニングを本格化すべきなのです。

人は誰しも、けがが治ったり疲れが取れたりすれば、中止前のパフォーマンスを早く取り戻そうとするでしょう。しかし、復帰を焦って、筋肉量と筋力が元に戻る前に技能向上のトレーニングを再開するのは禁物です。なかなか元の水準に戻らないだけでなく、場合によっては、競技生命が終わってしまう重大なけがを招くことも考えられます。「急がば回れ」の格言を胸に秘めましょう。

(田中誠一=浜松大教授・東海大名誉教授)